大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)253号 判決

被告人 土肥和茂家

〔抄 録〕

論旨第二点について。

よつて按ずるに原判決が証拠の標目として「証人伏見照一の尋問調書中の供述記載」を掲げていること及び右証人尋問は裁判所外において昭和二十八年十一月十七日行われたものであり右の尋問に際しては被告人はこれに立会していないことは所論の如くである。そして論旨はかくの如き場合には裁判所は刑事訴訟規則第百二十六条に従い立ち会わなかつた被告人に対し速やかに証人尋問調書が整理されたことを通知しなければならないのに拘わらずこれが通知をなさず、また原審は刑事訴訟法第三百八条同規則第二百四条により被告人又は弁護人に対し右証拠の証明力を争う機会を与えなければならないのに職権をもつてこれが証拠調をなし被告人に意見弁解の機会を与えず、なお原審第四回公判調書によれば右の尋問調書は同日裁判官により職権をもつて呈示されたものであるが、これに対し同意決定取調済とあるのみであつて被告人弁護人検察官のいずれが同意したものであるか不明である。然るに原審が漫然としてこれを有罪の証拠として採用したのは違法であり、しかも右尋問調書は重要な証拠であるから原判決は破棄されるべきであると主張するのであるが、刑事訴訟規則第百二十六条は裁判所は検察官、被告人又は弁護人が公判期日外における証人尋問に立ち会わなかつた場合において証人尋問調書が整理されたとき、又はその送付を受けたときは、速やかにその旨を立ち会わなかつた者に通知しなければならない旨を規定しており、その趣旨は刑事訴訟法第百五十七条第百五十八条第百五十九条等を受け裁判所外における証人尋問において当事者が立ち会わなかつたとき被告人の不測の不利益を救済しようとするにあることは謂うまでもないところであるが右の尋問には菊地、堀合の両弁護人が立ち会つており、かくの如く弁護人又は被告人のいずれか一方が右の証人尋問に立ち会つている場合には必ずしも前記規則所定の通知はこれを必要としないものと解せられるのみならず、仮りに然らずとしても本件証人は被告人側の請求に係るものであり、被告人弁護人とも出頭のうえ開廷された原審第三囘公判廷において右証人の尋問の決定及び尋問の期日、場所が指定告知されており、次いで弁護人から詳細に尋問事項を記載した書面が提出され裁判所もまた刑事訴訟規則第百八条により尋問事項を告知しておるのみならず、第四囘公判廷において右尋問調書の証拠調が行われた際には弁護人被告人ともに出頭しているのに拘わらずこれが証拠調並びにこれを証拠とすることについてなんらの異議をも申し立てず且つ右の尋問調書は証拠書類として同公判廷において朗読の方法によりその内容が知らされたのに弁護人からも刑事訴訟法第百五十九条第二項所定の再尋問の請求もなされていないのであるから前記の瑕疵は責問権の抛棄により治癒されたものと解すべきである。そして右の証人尋問調書は刑事訴訟法第三百二十一条第二項の書面であるから訴訟関係人の同意をまたずして証拠能力のあることは勿論であり、また裁判所は右の尋問調書を同法第三百三条により証拠書類として取り調べなければならないのであるから原審が職権をもつてこれが取調をなしていることは当然である。なお裁判所が職権をもつて証拠調の決定をなすにあたつては訴訟関係人の意見を聴くのであるから(同法第二百九十九条第二項)被告人、弁護人において若し前記証拠書類の取調に異議があるならばその際意見を述べ得ること勿論であり前記公判調書に同意と記載されている趣旨は被告人弁護人において異議を申し立てなかつたという意味に解すべきであり所論のように被告人側にこれが証拠調に関し意見弁解の機会を与えなかつたものとは認められない。更に論旨は原審は刑事訴訟法第三百八条同規則第二百四条に定められている証拠の証明力を争う機会を被告人に与えなかつたと非難するけれどもかくの如き事項は同規則第四十四条所定の公判調書の必要的記載事項に属しないから公判調書にその旨の記載がないからとて直ちに右の機会を与えなかつたものと断定すべきではないこと勿論であり、むしろかくの如き刑事訴訟手続において一般的に行われる手続は反証のない限り合式に行われたものと解すべきであるところ本件訴訟記録全体を精査してもこれを疑うべきなんらの形跡も存しない。それゆえ各論旨はいずれも採用することはできない。

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